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東京地方裁判所 昭和58年(行ク)17号 決定 1983年1月26日

申立人 日本労働組合総評議会

右代表者議長 槇枝元文

右代理人弁護士 佐伯静治

同 佐伯仁

同 山本博

同 恵崎和則

同 藤本正

同 永瀬精一

同 渡辺正雄

同 岡田和樹

同 井上幸夫

同 宮里邦雄

同 仲田信範

同 小野幸治

同 山口広

同 田原俊雄

同 江森民夫

同 吉田武男

同 塙悟

同 岡村親宜

同 山田裕祥

同 古川景一

同 清水洋二

同 徳住堅治

同 鴨田哲郎

同 上田和孝

同 山川豊

同 清見栄

同 清野順一

同 中野麻美

同 中野新

被申立人 東京都公安委員会

右代表者委員長 安西浩

右代理人弁護士 山下卯吉

同 佐藤欽一

同 竹谷勇四郎

同 武藤正敏

同 高橋勝徳

同 福田恒二

同 金井正人

右指定代理人 滝藤浩二

<ほか五名>

主文

一  本件申立てを棄却する。

二  申立費用は申立人の負担とする。

理由

一  本件申立ての趣旨及び理由は、別紙「行政処分執行停止申立書」のとおりであり、被申立人の意見は、別紙「意見書」のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  本件疎明によれば、次の事実が認められる。

申立人は、昭和五八年一月二二日付けで被申立人に対し、次の内容の集会及び集団示威運動の許可申請をした。

(一)  目的及び名称 反金権、田中角栄即時辞職要求、中曽根内閣糾弾一・二六中央集会

(二)  日時 昭和五八年一月二六日午後六時開会、午後七時出発、午後一一時解散

(三)  集会場所 大塚公園

(四)  進路 会場(北口)――大塚公園前左(春日通り左)――大塚三目目右――不忍通り――護国寺前――目白台二丁目左――目白通り――目白坂――日本道路公団駐車場前(高速道路下)

(五)  参加予定人員 二万人(宣伝車二五台)

右申請に対し、被申立人は、同月二五日付けで、公共の秩序を保持するため、集団示威運動の進路を次のとおり変更する旨の処分をした。

大塚公園(北口)――大塚公園前交差点左――大塚三丁目交差点右――護国寺前交差点左――音羽一目目五番地株式会社江戸商事駐車場前

申立人は、右処分が違法であるとして、同日、東京地方裁判所に右処分の取消しを求める訴え(昭和五八年(行ウ)第二三号)を提起するとともに、本件申立てに及んだものである。

2  そこで、本件申立てが行政事件訴訟法二五条所定の要件に該当するか否かについて判断するに、本件疎明によれば、次のとおり認められる。

本件集団示威運動の進路をなす目白通りは、全長一・二キロメートル、片側二車線往復四車線で、一車線幅は二・七五ないし三・一五メートルと比較的狭く、全車道幅も一一ないし一二メートルである。本件集団示威運動の出発予定時間である午後七時から通過終了予定時間である午後一一時ころまで右の目白通りの車両通行台数は、約三六〇〇台と予想され、同時間帯には定期路線バスが二七本運行される。右の目白通り沿線は、大部分が第一種又は第二種住居専用地域に指定されている。

一方、本件集団示威運動は、約二万人の参加が予定される大規模なもので、主催団体の構成員のほかに開催趣旨に賛同する団体、個人も参加が可能なものであり、過去においてしばしば過激な行動に出て公共の安寧秩序を害したことのある複数の過激派集団もその構成員に参加を呼びかけており、これらの過激派集団が本件集団示威運動に市民団体の名の下に参加することが明らかである。そして、右の過激派集団は、その構成員に対し、本件集団示威運動の際に独自の闘争を展開するよう呼びかけている。また、本件集団示威運動は、一般大衆に主張を訴えるとともに、田中邸を目標にシュプレヒコールを行うことを大きな目的としている。したがって、本件集団示威運動が秩序正しく行われたとしても、交通規制及び不測の事態に備え当然必要な警官隊の配置をも考えると、片側二車線で上下の車両の流れを順調にさばくことは相当に困難で、上下の車両の交通が一車線に限られて付近の車両交通に重大な影響の及ぶことが明らかである。そのうえ、本件集団示威運動が田中邸という一個の具体的目標を設定したもので、夜間比較的狭い地域に約二万人が結集し、その中に過激派集団も加わることからすれば、全体の統制が乱れ、混乱が生じ、地域の平穏が乱され、公共の安寧が害されるおそれが高度の蓋然性をもって予見され、そうなれば、目白通りは全面的閉鎖を余儀なくされ、付近の一般交通も広範囲にわたって著しく阻害されることが明らかである。

ところで、「集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例」(昭和二五年東京都条例第四四号)三条一項六号の「公共の秩序……を保持するためやむを得ない場合」か否かは、地域的状況その他諸般の事情を具体的事例に即して考量のうえ、被申立人がその専門的な知識と経験に基づき判断すべき裁量事項に属するところ(最高裁判所昭和三五年七月二〇日大法廷判決参照)、右に述べたような状況からすれば、被申立人が公共の秩序を保持するためやむを得ないとしてした本件処分に裁量権の逸脱ないし濫用の違法が存するとは認められず、結局、本件は、行政事件訴訟法二五条三項の「本案について理由がないとみえるとき」に該当するものというべきである。

三  以上のとおりであって、本件申立ては理由がないから、これを棄却することとし、申立費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 泉德治 裁判官 大藤敏 杉山正己)

<以下省略>

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